第5回研究会 報告


20150226

植物が織り成す自然のサイクルに対しヒトはどのように向き合ってきたのだろうか。それを如実に示す例が、農耕・農業である。第5回研究会は、「生循環」の概念をより精緻化することを目的に、「農耕・農業」をキーワードに据え、2016年2月26日、京都大学白眉センターにて約15名の参集を得て開催された。

 

西村周浩氏による話題提供「「ライフプロセス」における循環性と非循環性:古代ギリシア・ローマにおける農耕と神話・習俗の関係」は、2015年に本研究会で行った自身の二度の発表を土台に、太古の人類が身の回りの事象から感じ取り、場合によっては再構築したと考えられる「ライフプロセス」について俯瞰するところから始まった。ヒトを含む動植物の生死の動向を観察することで生じうる生命観に、我々の祖先がどのような「プロセス」を付与したのか。西村氏は、循環性の有無を基準に様々なパターンを分類し、とりわけ植物のライフプロセスが醸成しうる生死サイクルの永劫回帰的イメージを「生循環biocyclosis」の好例として位置づけた。その一方で、非循環的なライフプロセス、あるいはそれが生み出しうる生命観についても広く研究会の考察対象とすべきであると主張した。そして、古代ギリシア・ローマの神話・習俗から、植物と人間を結びつける営みである農耕がモチーフとなっているいくつかの事例を取り上げ、その背後に見られる循環性・非循環性について概説した。

 

農業の営みはもちろん連綿と現代に引き継がれている。植物育種学を専門とする小出陽平氏は、種類の異なるイネの雑種inter-specific hybridが抱える実りの脆弱性を克服すべく、遺伝子レベルの分析を含む最新の科学研究を行っている。その小出氏から「植物育種学から見た生循環(仮)」というタイトルで話題提供が行われ、試験的かつ挑戦的な観点から「生循環」の概念が植物の栽培化プロセスの考察に応用された。近年の研究で、イネの祖先は多年生であったことが分かっている。多年生植物は基本的に種子を作らず、植物体のまま繁殖を続けクローン集団を形成する(非生循環的)。古代人にとっては種が得られる見込みの少ない厄介者で、仮に播いても収穫効率が悪い。したがって、株分けによる栽培を出発点としながら、農業に適した変異の人為的選抜、あるいは1年生植物とのかけ合わせによって、播種・収穫サイクルが成立していったと考えられる。小出氏は東南アジアの農村を訪れた際、植物に関する現地の人々の知識量に驚いたと言う。そうした知識と気候の年周変動への理解が相乗効果的にイネの栽培化に寄与し、そこに生循環の概念も影響を及ぼしたのでないかと小出氏は推測している。

 

西村氏と小出氏は、それぞれ人文学と自然科学の研究者で、本来であれば接点のない両人であるが、「生循環」「ライフプロセス」「農耕・農業」などの補助線を引くことで、多くのコモン・グランドがほとんど手つかずまま存在していることが明らかとなった。出席者からも分野の重なりを感じたという声があり、今後の進展が期待される。